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岡山地方裁判所 昭和24年(行)25号 判決

原告

河上廣三

被告

岡山県農地委員会

主文

原告の訴を却下す。

訴訟費用は原告の負担とする。

請求の趣旨

岡山縣川上郡吹屋町字蛤谷家の上四千七百九十五番畑六畝四歩に対する原告の遡及買收指示請求の訴願に対し、(甲第一号証の二の第十一号決定書に徴し「遡及買收指示請求に対し」の誤記と認める)被告が昭和二十三年十一月十五日付を以て発した(甲第一号証の一の昭和二十三年十一月十五日付吹屋町農地委員会名義送付書及右甲第一号証の二に徴し「被告が昭和二十三年七月二日附で爲した」の誤記であろう)決定第十一号の決定(請求棄却)を取消す、訴訟費用は被告の負担とす。

事実

原告訴訟代理人は、請求原因として、

岡山県川上郡吹屋町大字中野字蛤谷家の上四千七百九十五番地畑六畝四歩に対する原告か曩に為した訴願の理由は、右農地は元来原告の先代河上彌平の所有地であつて長い間荒地であつたのを、原告か自己の所有地として昭和十七年より五年間に亘り開拓し其の間多数の人夫と多大の費用を負担して今日の畑地としたものである。然るに原告の不在中不正の方法を以て該農地を外数筆の不動産と共に訴外藤田勝五郞の所有名義にしてあつたのを、昭和十五年右訴外人死亡後其の相続人訴外藤田利夫が昭和二十一年十一月二十八日訴外河上峰治に売却し其の所有権移転登記を了してをることを昭和二十三年四月一日に至り初めて原告は知つたが訴外藤田利夫が右農地を訴外河上峰治に売渡した証書は偽造されたものであつて当時訴外中山〓一、同丘誠之等の仲介により右農地を原告の所有と為すべく諒解を遂げ原告も其の趣旨の下に書類に捺印したものであるのに其れが前記の如き経路により現在訴外河上峰治の所有名義となれるその原因証書である本件農地の売渡証書が偽造されたものであるから、被告農地委員会の為した原告の請求棄却の決定は之を妥当な決定と認め得ないので、其の取消を求むる為め本訴請求に及ぶと述べ、尚本件請求棄却決定の通知書が原告に送逹せられ其の旨を原告が知つてより本件訴を提起する迄に一ケ月以上経過している事実は之を争わないと附陳した。(立証省略)

被告指定代理人は、原告の請求を却下す、訴訟費用は原告の負担とすとの判決を求め、本案前の答弁として(一)被告が為した自作農創設特別措置法(以下単に自創法と略称す)第六條の三の規定による遡及買收の指示請求の決定は単に行政庁内部の意思決定に過ぎず行政処分ではないので、行政事件訴訟特例法による行政庁の違法な処分の取消又は変更を求むる訴訟の対象にはならないのであるから本件は不適法な訴として却下さるべきものである、即ち自創法第六條の三の規定による遡及買收の指示請求については同法第六條の二第二項の規定に照し遡及買收をなすべきか否かを審議決定して其の旨を当該市町村農地委員会に指示するものである、よつて被告は原告より昭和二十三年五月七日付で提出された遡及買收の指示請求について昭和二十三年七月二日委員会を開催して審議した結果遡及買收することは不適当と決定したので、其の旨を昭和二十三年十一月八日付で川上郡吹屋町農地委員会に対して指示したが、其の際指示請求者である原告に対しても其の旨を通知せしめたものであつて、此のことは原告に対して直ちに法律上の効果を及ぼすものではなく、行政庁内部に於ける意思決定であつて、被告の為した右決定は行政処分でないことは自明であると述べ(二)仮に本件訴訟が行政事件訴訟特例法に基く訴であるとしても出訴期間を徒過しているものである、即ち本件決定書は昭和二十三年十一月八日附被告農地委員会から吹屋町農地委員会に対して発送し、更に吹屋町農地委員会より申請人である原告に対し昭和二十三年十一月十三日で通知したので、右通知書は同町内に居住している原告に対し同日若しくは遅くとも数日後には送逹されているものであるから出訴期間である一ケ月を経過している本件訴訟は却下さるべきものであると陳述した。(立証省略)

理由

自創法第六條の三の遡及買收指示請求の棄却処分は行政廳内部間の意思表示(意思決定とあるは誤記であろう)に過ぎないものと言うを得ない。成立に爭のない甲第一号証の二の決定書に依れば原告主張の決定は請求人なる原告に対しその遡及買收指示の請求を棄却したものであつて行政廳内部間の行爲でないのは勿論、これにより原告の遡及買收により得べき利益を喪う結果を招來すべく、之か取消の請求は行政事件訴訟特例法の訴の対象になるものと解するを相当とする。然し原告は本件請求棄却の決定があつたことを知つてより本訴を提起する迄に一ケ月以上の期間を経過せる事実を爭わざるところであるから自創法第四十七條の二、同法附則第七條に定むる一ケ月の出訴期間を経過した本件訴は之を不適法と認むべく從て原告の本訴請求は其の余の判断をする迄もなく之を却下し訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九條を過用し主文の通り判決する。

(中島 菅納 〓川)

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